第9回:フィリピンと日本の不動産投資家の心構えの違い──“常識”のズレが生むリスクと学び
こんにちは。これまでの記事で、私はフィリピンのプレビルド不動産投資における失敗を赤裸々に共有してきました。
今回はその経験を通して強く感じた、「フィリピンと日本の不動産投資家の心構えの違い」についてお話します。
これは、単なる文化の違いというよりも、投資における“前提”や“判断軸”の違いです。知らずに海外に投資することのリスクを、改めて考えるきっかけになれば幸いです。
1. フィリピンの投資家に見られる特徴
私が現地で観察した限り、フィリピンの個人投資家や不動産プレイヤーは、次のような特徴を持っていました:
- スピード重視:「今買わないと損をする」という心理が強く、早期決断を優先
- キャピタル狙い:保有ではなく、完成前後で売却して差益を得る発想が中心
- 現金主義:ローンよりも現金一括での購入者が多い
- 口コミ・知人紹介で購入する傾向:信頼できる人の言葉が最も強い判断材料
- 不動産=財産の象徴:家族の名義で資産を残す目的も強い
また、価格変動の激しい市場背景もあり、「値下がりしてもまた上がる」という発想で、細かいリスクをあまり気にしない投資家も多い印象でした。物件選びも“周囲が買っているから”という理由で動くことが少なくなく、データ分析よりも直感的な判断が強く働いています。
2. 日本の不動産投資家に多い特徴
一方で、日本の不動産投資家は、まるで逆のスタンスと言える特徴があります。
- 慎重で保守的:物件の立地、収支シミュレーション、法務・税務を細かくチェック
- インカム狙い:長期保有して家賃収入を得るスタイルが主流
- ローン活用前提:レバレッジを効かせた運用が基本
- 自主管理志向:信頼できる管理会社を厳選して契約し、運営に関与する
- リスク回避意識:空室率・修繕費・融資金利などの下振れリスクを徹底的に分析
日本の不動産市場は変動が少ない分、コツコツ安定収入を積み上げる戦略が向いており、リスクを最小化しながら長く運用していく“地道なスタイル”が一般的です。「売らずに持ち続ける」ことが前提の投資家が多く、流動性よりも安定性を重視する傾向が強く出ています。
3. なぜこの違いが問題になるのか?
私が失敗した最大の理由のひとつは、「フィリピン的なスピード感や期待値」に、日本的な慎重スタイルで臨んでしまったことです。
例えば、現地投資家は「完成直後に転売する」のが常識なのに対して、私は「完成前から売れるはず」と早まった判断をしてしまい、マーケットの温度感とずれたタイミングで動いてしまったのです。
また、現地で一般的な広告・仲介ネットワークの使い方や、物件の魅せ方にも疎く、売却活動で大きく出遅れました。現地の文化や投資家マインドを知らないことで、“現地での流通構造”に乗り遅れたのです。
さらに、書類管理や手続きの進め方、コミュニケーションスタイルの違いも障害となりました。日本的な丁寧で事前確認重視の姿勢が、現地では“慎重すぎて遅い”と捉えられ、買い手や仲介人とのスピード感に齟齬が生じたのです。
4. 成功するために必要な「文化的バランス感覚」
海外投資で成功するには、どちらか一方のスタイルに偏るのではなく、両者の文化や投資スタンスを理解したうえで、“ミックス型”の心構えが必要です。
例えば、
- 現地的なスピードで購入するが、日本的に出口まで計画しておく
- 現地の仲介網に頼るが、契約は日本人弁護士にもチェックしてもらう
- 現地パートナーと積極的に協業するが、資金計画は日本的に堅実に組む
- 現地事情を理解するために視察を欠かさず、現場感覚も重視する
このように、“現地適応”と“リスクコントロール”のバランスをとることで、初めて海外不動産投資は現実的な選択肢になります。
5. 私が痛感した「日本人投資家としての弱点」
私自身、
- 英語での契約確認が不十分
- 現地市場のリアルな家賃相場や売買実績を理解していなかった
- 「日本企業が間に入っているから大丈夫」という過信
- 現地パートナーを持たずに単独で進めてしまった
といった、典型的な“情報弱者”だったと思います。これは文化的背景だけでなく、グローバル視点での感覚不足が原因です。
今振り返ると、契約書の不明瞭な点をそのままにしたまま進んだこと、SMDCからの返信がなかった時点で強く疑問を抱かなかったことは、完全に準備不足と甘さでした。
海外で通用する投資家になるためには、「現地の当たり前」を知る努力が不可欠です。語学力も含めて、リテラシーを高めていく必要があると痛感しています。
6. まとめ:スタンスの違いを理解することが第一歩
国が違えば、法律も文化も、不動産の価値観もまったく異なります。
「日本ではこうだから」「日本では当たり前だから」という思い込みをいったん捨てて、その国の常識・投資家マインド・リスク感覚に合わせる柔軟性こそ、海外不動産投資で最も必要な力だと私は感じています。
この気づきは、私にとって損失以上の財産でした。
これから海外不動産投資に挑む方には、まず「現地の文化や投資家の心構え」に注目してほしいと思います。それを理解して初めて、物件選びや契約、売却戦略においても、本当に意味のある判断ができるようになるのだと思います。
次回は、第10回「日本人が海外不動産で損をする典型パターン」について深掘りしていきます。